2011年4月14日木曜日

VRS-RTK方式を用いたGPS基準点測量の説明

表題をご覧になって内容がピンとこない方を想定して、ごく大雑把な説明を試みました。「VRS-RTK」と「基準点測量」の意味もしくは内容がイメージできれば、ピンとくるのではないでしょうか。長文ですが順番にお読みください。また、間違いがあればご指摘いただければと思います。随時修正します。

VRS-RTK測量とは

GPS機能搭載の携帯電話などよりもはるかに高精度に、比較的容易に座標を得ることができる観測・計算方法です。

 

基準点測量

地球上のある場所の座標(平面位置や高さ)を求めるための測量を「基準点測量」と呼びます[注1]。

多くの測量作業の基本となる国土交通省「作業規程の準則」には、基準点測量を行うためのいろいろな機器による観測方法が記載されています。代表的なものには、トータルステーション、GPS測量機、レベルなどによる方法があります。観測方法はさまざまですが、その一方で計算は本質的に「平均計算」と呼ばれる方法しかありません[注2]。

[注1] 正確には、ある地域の測量を行うための基準となる点の座標を得るための測量で、位置を求める測量のすべてが基準点測量というわけではありません。

[注2]  [測量]は屋外で観測作業をしているイメージが強いかもしれませんが、観測したデータから座標を計算したり図化したりといったことも重要な作業となります。

 

平均計算

観測値は観測方法によって異なります。トータルステーションであれば距離と角度、GPSであれば2点間のベクトルが観測によって得られます。いずれにせよ、観測値には必ず誤差を含みます。誤差は平均をとることで真値に近づくことが期待できます。基準点測量においても、ある1点に対して複数の観測を行い、これらを平均することで誤差を小さくし、より正しい座標値を計算しています。これが「平均計算」です。
下記はGPSによる観測値であるベクトル(基線ベクトル)からの平均計算の単純化した例です。実際にはもっと多くの観測を組み合わせ、それぞれの観測に含まれるであろう誤差の大きさを考慮して平均計算を行っています。
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GPSによる測位

「GPS」という言葉が一般に認知されて久しいです。この「GPS」はアメリカの測位(つまり位置を計測するための)衛星を用いた測位システムのことですが、衛星を使って現在位置を計測するための仕組みを総じて「GPS」というのが一般的です。
GPS衛星による測位の方法はさまざまです。代表的なものはカーナビや携帯電話で広く用いられている「単独測位」方式ですが、工事などではより高い精度を得るために「干渉測位」方式という測位方式も使用します。干渉測位方式にもさまざまなバリエーションがありますが、その中のひとつがVRS-RTKと呼ばれる方式です。つまり、VRS-RTKとはGPS衛星を用いた測定方法のひとつであるということになります。
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何を受信しているのか

GPS衛星からはコード情報を含む電波が送信されています。コード測位である単独測位では、このコード情報(衛星の軌道情報や送信時刻など)からそのGPS受信機の座標を計算しています。
一方、VRS-RTKを含む干渉測位方式でもコード情報を使用しますが、基本的には電波の”波”そのものである「搬送波位相」を観測して計算に利用しています。
よくある誤解ですが、カーナビから何かの信号をGPS衛星に送ったり、GPS衛星がカーナビのGPSアンテナを追尾たり、GPS衛星が車の座標を送信したりといったことはありません。

 

干渉測位の特徴

干渉測位では、2か所以上で同時にGPS衛星からの電波を観測する必要があります。例えば、干渉測位方式の一つであるスタティック法では、3台以上のGPS測量機を異なる場所に配置して、1時間以上の観測を同時に行う必要があります。 また、得られた搬送波位相からは座標ではなく、2か所の間のベクトル(基線ベクトル)が得られます。このベクトルを得るための計算を「基線解析」といいます。さらに精度を要する観測では、この基線ベクトルに含まれる誤差を小さくするための平均計算を経て、初めて座標が得られます。このように、基線解析や平均計算が必要となる干渉測位方式では、観測したその場で即座に座標は得ることはできないのです[注3]。
コード情報からその場で座標得ることができる単独測位よりは観測も処理も面倒ですが、この手間によって単独測位とは桁違いに高い精度で座標を得ることができます。

[注3]  無線などを用いて基線解析と単純なベクトル計算を行うことで大まかな座標をリアルタイムで得ることも可能ですが、平均計算を前提とした精密な観測では全ての観測が完了しなければ、正確な座標は得られません。

 

観測の具体例(スタティック方式)

VRS-RTKの前に、干渉測位方式で基本となるスタティック方式での観測について説明します。
スタティック方式では既知点(座標値が分かっている場所)と新点(座標を得るための場所)にGPS測量機を設置して観測する必要があります。下の図では、AセッションとBセッションという2回の観測を行っていますが、それぞれのセッションで3台のGPS測量機を各観測ポイントに配置して同時にGPS衛星からの電波を受信しています。この方式では高い精度で座標が得られるのですが、何台ものGPS測量機が必要であったり観測時間が長くなったりなど、なにかと大掛かりになってしまうという欠点があります。

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スタティック方式による観測

 

観測の具体例(VRS-RTK方式)

一方VRS-RTKでは、1台のGPS測量機を持って既知点と新点を巡回する形で観測します。VRS-RTKも干渉測位なので同時に最低2か所でGPS衛星からの電波を受信する必要があるのですが、そのうち1か所(これを「仮想点」といいます)から得られる情報を、配信会社[注4]から携帯電話などで受信することによって、一台のGPS測量機で干渉測位を行うことができます。仮想点は基線ベクトルを形成するための仮の点なので、実際にその場所に行って観測を行うことはありません。 さらに、スタティック方式に比べて精度はやや劣りますが、観測時間は圧倒的に短くて済みます。
[注4]  配信会社は、仮想点において得られるはずの情報を推定し、利用者にリアルタイムで送信します。計算には全国各地に設置されている「電子基準点」というGPS受信機の受信データを利用しています。


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VRS-RTK方式による観測

 

まとめ

このように、VRS-RTK方式は単独測位のように一台で観測しますが、平均計算を行うことによって単独測位よりもはるかに正確な座標を得ることができます。
なお、詳細については作業規程の準則(http://www.gsi.go.jp/KOUKYOU/index.html)なども参照してください。